マイノリティ・リポート Minority Report

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監督:スティーブン・スピルバーグ
出演:トム・クルーズ、コリン・ファレル、サマンサ・モートン、マックス・フォン・シドー、キャサリン・モス
時間:146分
公開:2002年
キャッチコピー:
誰でも逃げる
ジャンル:
SFアクションサスペンス

コメント一覧

尾内丞二 | 簡易評価: おすすめ | 見た日: | 見た回数: とてもたくさん

僕は誰かの『映画好き度』を計るのにスピルバーグ作品を使う。

彼の映画を観て
「いかにもハリウッド的な映画ばっかり作るよね(笑)」
などと笑うヒトは、まず間違いなく映画を観る目が出来ていない。

絵を掛ける人間は、フリーハンドで描かれた直線を見れば『その線を引いた主は絵が描けるかどうか』が判る。
キレイな直線を引くというのはそれくらい難易度が高く、シロウトほどその価値を知らない。

スピルバーグの描く風景は実にありきたりで平凡だが、映画をまともに2,000本くらい観た者ならば、その演出の背後に『定規で引いたようなフリーハンドの直線』を見つけることができる。…それは少しも当たり前の風景ではないのだ。

今回の映画「マイノリティ・リポート」でも、その片鱗を充分にうかがい知ることができる。

ちなみに柴田は腐ったサンドイッチや網膜認証システムの管理不備、あるいはディックの構築した世界についての感想を述べているけど、これらはぜんぶ脚本に対する評価であって映画の批評ではない。本編を観ずに脚本だけを読んでも同じ文章が書ける。

…もちろん、だからといって彼を責めているわけではない。映画の楽しみ方なんて本来それくらいがちょうどいいのだ。
しかし幸か不幸か僕はスピルバーグのファンではなく『同類』なので、せっかくだから彼の偉業を一般のヒトにも判るように解説してみようと思う。

本作の中盤。主役のジョン・アンダートンが犯罪予防局に追われて自動車工場へ逃げ込むシーンがある。
恐らく脚本には次のように書かれていたはずである。


捜査員に追われ、迷路のように陳列されたプラスティック容器の間を走り抜けるジョン。
追手の一人から空気銃を奪い取り、それで応戦しながら逃げ続ける。


…さて。
もしもアナタが監督だったら、どうやってジョンに空気銃を奪わせるだろう…?


何かにつまづいて倒れ込んだトコロに追手が襲いかかり、えい!えい!と格闘して銃を取り上げる。


これじゃあせいぜい20点だ。
ただ殴り合うだけの格闘シーンなんかを入れようものなら、せっかくテンポが良いシーンなのに全く不必要な十数秒のブレスが出来てしまう。

スピルバーグがこのシーン全体のリズムとスピード感を失わないように出した答えは次の通りである。


2段に積まれて陳列するプラスティック容器の通路。
追手が画面奥から走ってきて胸の高さから水平に狙うカメラの前を横切り、左手前の通路に駆け込みフレームアウト。
直後に打撃の効果音が入り、左手前通路脇上段のプラスティック容器が棚から押し出されて地面に落ちる。

カメラが容器の落下を追って俯角になったトコロへ通路の奥から空気銃が滑ってくる。
銃を拾い上げるジョン。


仮にこの映画を数回観ていたとしても、アナタは上記の見事なカメラワークを全く覚えていないだろう。

スピルバーグは前述のカメラワークを用いることによって“逃げる”“戦う”“空気銃を取り上げる”という3つのイベントを、たった4秒の1カットで観客に『理解させている』にも関わらず、流れがあまりに自然すぎるために観客はその凄さに気づくことすらできないのだ。

このような構成は『考えて思いつく』とかそういう問題ではない。
子供の頃からユニバーサルの撮影所に忍び込み、大きくなってからも映画を作ることだけに情熱を注ぎ続けたスピルバーグだからこそ可能な離れ業なのだ。

彼はまるで息をするのと同じくらい自然に、作品にとって最も適切な演出を与えることができるのだろう。

スピルバーグ全盛の時代に生まれてきたことは、映画好きにとって最も幸運なことだと思う。

柴田宣史 | 簡易評価: まあまあ | 見た日: 2012年05月19日 | 見た回数: 2回

丞二がほめてるし、それで貸してくれたので2回目を視聴。

どうやら1回目ものぐちと見たらしく、彼女は「柴田くんが言っていたコメントを覚えている」とのことだった。

それは2カ所。

ひとつは腐ったサンドイッチを食べるシーンで「その演出は不要だろう!」と突っ込んでいたそうな。

もう一つは自分の古い目ン玉で、犯罪予防課に忍び込むところ。「そんなもん、入れないように記録を抹消しておけよ!」とかなんとか言ってたそうな。

* * *

2回目も同様のことを思ったので、まあ、あまり人となりは変わってないのか。

* * *

で、貸してもらっておいてなんだけど、やっぱりディックだなあ、と。

precrimeという考え方は、英語としては面白いのだけど、ほとんど彼特有の陰謀論に根ざす被害妄想的な着想だし、そもそも<予知>という発想に、僕はあまりSF的なものをかんじない。

百歩譲って、もし予知という現象があるとして、<人間という存在が予知能力を獲得する>ことの意味はいったいなんだろうか。

あるいは人間のみが、高度な精神世界を手に入れたが故に予知能力を獲得する、と考えるのであれば、それはあまり僕の好みの考え方ではない(そんなことを言ったら『虎よ、虎よ!』のジョウントだっておかしいけど、なんだったら人間以外でもあの世界だったらジョウントしそうだし。というかあの世界においてはジョウントよりもジョウント対策の発想が面白いと思うのだけどさ)。

最後に予知が外れることで、けっきょく予知がすべてではないとし、こうやって運命論的な世界を破綻させることで、予測不可能な世界を描くというのは、物語の手法としてはわかるのだけど、結局のところ、過剰な警察行為が嫌だというくらいにみえちゃう。

* * *

スピルバーグは子供を殺さないことで有名だけど、本作ではそのストレスもつらい。過剰警察行為社会であるストレスと一緒に、子供を失った苦しみを描いていて、見ててちょっと負荷が強すぎるのです。

見る前に丞二が指し示していたシーン(プレコグが仮定法で語るシーン)もズシーンとつらいし。

そうそうスピルバーグといえばだけど、僕の印象では、本作の演出はかなり異質に思える。

彼の作品で、ダニー・ボイルが好きそうな、こんなにチラチラしたフラッシュバックの演出ってあったろうか。これがまたパラノイア風で、いかにもディック作品らしい。

* * *

どんでん返しの部分とか、ある意味とってもSFらしいなあとは思うし、予知能力の存在可能性という部分を捨象すれば、傘を盗むシーンとか、けっきょく主人公が殺人を犯してしまうところとか、うまい演出だなあとは思う。

SFといえば荒唐無稽な話が目白押しで、たとえば僕が大好きな「コンタクト」だと、宇宙人たちは、膨張し続ける宇宙の反膨張工事を行っていたりする(映画にはこの話は出て来ない)。そんなでたらめな話はないとは思うのだけど、でたらめかどうかじゃなくって、ファーストコンタクトで設計図を送ってくる、こういうところにSFのセンスオブワンダー(ガジェット)があるとおもうのです。

宇宙ものだからじゃないですよ。「アンドロメダ...」(検疫シーンや排泄をしない(=使い切る)生物)だって「ジュラシック・パーク」(琥珀からのDNAの抽出と特殊な状況下における性転換)だってSFのセンスオブワンダーを感じる。

でも、僕は、僕の印象だと、ディックにはそういうSFのセンスオブワンダーを感じることができない。権力を相対化したりとか、カオティックな物事への指向性とか、そもそも僕も大好きだし、上述のとおりストーリーテラーとしては秀逸だと思うのだけど、やっぱりSFじゃあないんだなあとおもう。どっちかっていうと、ファンタジー作品に感じるのかなあ。

もちろんSFかどうか、なんてどうでもいいことで、物語としてはきちんときれいにまとまってるし、無理矢理に感じないこともないけど、いちおうハッピーエンドなので、ストーリーテラーとしてのスピルバーグとディックは偉いなあと思います。あとけっこう都会だし。

読み返してみたら、文句ばっかりだった。

丞二、貸してくれたのにごめんね。

石田憲司 | 簡易評価: おすすめ | 見た日: 2012年01月23日 | 見た回数: 3回

面白かったです。ハイ。もともとディックの作品は「ブレードランナー」はじめ嫌いじゃないし、この作品も印象が良かった一本ですしね。

以前、妙に手のかかるインターフェイスだなぁ。とか思ってたあのばかでかいスクリーンを前にしたトムでしたが、改めて見るとなるほど、あれくらい大っきくないと細かーい手がかりは見つけにくいし意外に効率的なのか?とか思い直した次第です。まぁ、そうはいっても指先とか視線センサーとかもうちょっとできそうな気もしなくはないですがね。

プリコグとの行動の所が好きですね。後出の「ネクスト」みたいな先を読んでの行動。あちらよりも見せ方がよろしい。最後に傘をさすシーンとか結構好きです。ネクストだとこうはいかない。あちらはなんせニコラスなのでねぇ。いや、彼の責任だけではないですがね。

ちっちゃい頃に見た未来の世界とはちょっと違う(チューブ上の高速道路にびゅんびゅんとタイヤのない車が走ってるとか)とはいえコーイウ未来の映像って好きなんですよね。「アイ・ロボット」見た時も、うーん好きだなぁ。とか思ったっけ。
ま、これが果たしてあと数十年でなりうるかと言うと、正直疑問符がつくんですが、結構いい線の所までは行けそうな気もするし。視覚(光彩)センサーでその人ごとの宣伝をだしたりとかはともかくとして、個人ごとのおすすめ宣伝に関しては既にインターネット上で行われてるしね。

目玉を追っかけるトムも見れるし、部長を殴りたいというバーチャルショップに訪れた客をなぜかたしなめる店員(バーチャルやからいいと思うんやけど、そういうのはプリコグに予知されて殺人犯にされかねないから?)とか、意外にちょっとお茶目なシーンも織り込みつつのたのしいサスペンス。

ただ、なんでしょ。未来への警鐘と言うかなんちゅうかお堅いものが感じられないのは、僕のせいでしょうか?あるいは主役がトムだから??
なにはともあれ、割と長時間な作品ですが時間を感じさせずに一気に見れちゃいました。あーおもしろかった。

柴田宣史 | 簡易評価: まあまあ | 見た日: 2008年10月07日 | 見た回数: 1回

アメリカ人はフィリップ・K・ディックがそんなに好きなんですかね。彼の作品の映画化がやたらと多いような気がします。マイノリティ・リポートも、なんだか映画においてはスピルバーグが演出した世界観の勝利という感じで、そんなに物語自体のガジェットが面白い訳じゃあないと思うんですがね(いや「未来の予測不可能性」という着眼点は面白いんですが)。

でべ | 簡易評価: なかなか | 見た日: 2008年10月05日 | 見た回数: 2回

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