ビッグアイズ BIG EYES
画像表示切り替え監督: | ティム・バートン |
---|---|
出演: | エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、ダニー・ヒューストン、ジェイソン・シュワルツマン、テレンス・スタンプ |
時間: | 106分 |
公開: | 2014年 |
キャッチコピー: 大きな瞳だけが 知っている。 | |
ジャンル: 伝記、実話、法廷 |
コメント一覧
でべ | 簡易評価: まあまあ | 見た日: 2016年09月11日 | 見た回数: 1回
石田憲司 | 簡易評価: なかなか | 見た日: 2006年09月06日 | 見た回数: 1回
先にしばたんのレビューを見てたんで、なるほどそういうことだ。ということは知ってたんで、今回は夫側をメインで見てみたんですが、これもなかなかお馬鹿でグーですぜ。
ラストシーンの絵を描かない言い訳なんて最高じゃないですか。通るわけがない。ただ、それを堂々とニコヤカにやってしまうあたりに彼の凄さがあるんだろう。
ここだけでもワンランク上げて「オススメ」にしちゃってもいいんじゃないかと思っちゃうくらい。
ものすごーく調子のいい感じのおじさんでしたが、実に薄くてダメダメ。でも、裏を返せばそれでも見事に名声を勝ち得てしっかり儲けるところまでいってるわけで、あとは引き際を見誤らなければ大成功だったろうに。
また、あるいはあえて奥さんを立てて、その広報役として活躍しても流石にあそこまでは行かなかったかもしれないけど、穏便に成功例として歴史に刻まれたかもしれないのに。
とかね。それができてりゃこんなことにはならないとわかっていても、あー、なんかもったいない。みたいなとこもあるわけですよ。
男性名だから売れる。みたいなのもあったんだろうとは思うんですけど、それでもそんなに自分の名声が大事で、常に取り上げられていたいものなのかなぁ。
柴田宣史 | 簡易評価: おすすめ | 見た日: 2016年02月20日 | 見た回数: 1回
あらすじはどこかで見たらいいので詳述する気はないけれど、こんなことが起こったというのは、不謹慎には面白い片方、けっこうえげつないお話でもあります。
クリストフ・ヴァルツは「イングロリアス・バスターズ」のナチス将校が印象的だった彼。本作では、たいへん恐ろしい男性性と、たいへん愚かな道化を、かなりうまく演じていて、エイミー・アダムス目当てに見た僕の下心を見事に裏切ってくれました。
エイミー・アダムスはさすがで、美しいのだけど、つねに憂いを帯びた目が、本作では、嘘をつき続けること、男性に怯えていることを、綺麗に描いているように思いました。彼女が、キーンにうっとりしているところは、なにかを押し殺してでも恋に身を委ねようと決めている感じであるとか、彼女ならではだなあと。
それに、いつもの箱庭感も減じて、いっぷう変わったティム・バートンが見られます。
ラストもいい感じだし、おもしろかったですよ。
これは「独善的な夫に虐げられて人生を台無しにした才能ある女が、勇気ある行動で夫に打ち勝つ映画」か、「口のうまさと時の運で成功した男が、ヒステリックな妻にあげ足を取られて無残な人生を送る映画」か。
我が家ではけっこう物議を醸しました。
マーガレットが教会の告解室で語る「夫は決して悪い人ではないんです、家を買うために貯蓄もしているし…」ということばが、最後まで正しくウォルターを表している気がする。運の悪い偶然が重なって、ふたりは成功してしまう。それでもウォルターは、マーガレットの友人に忠告されたような「片っ端から女と寝る男」にはならないし、家族のために立派なおうちを買って、義理の娘のための学費も準備している。妻を縛り、ときには横暴なヒドい夫であることは間違いないけど、どこまでも「決して悪い人ではない」という感じがする。
何がひっかかるって、この二人の関係が、やり方次第で完璧に作動する歯車になりえたことだ。アート界に憧れと多少の知見があり、ダイナミックで商才のあるウォルター。自己評価が低く、一人で生きていくのは不安だけど、絵筆を持っていれば幸せなマーガレット。ウォルターは口八丁手八丁で世間の注目を集め、ビッグアイズの価値を高めて、いままで相手にされたなかったアート界を見返す。マーガレットは日々の暮らしを案ずることなく、ひたすら自分の作品に没頭することができる。こんなに幸運な巡り合わせってありえる? それぞれの持ち味が、お互いの人生を補完できるなんて。そんな相手と偶然出会って、しかも恋に落ちたなんて!
最初のきっかけはウォルターの嘘だったかもしれない。でもその嘘だけが原因で、悪いのは彼だけなの? 深く根を張った原因は、ふたりの関係にあるよう見える。夫婦として共に生きていくために必要な、お互いに対する敬意の欠落。
劇中、何度となく「ふたりでちゃんと話し合えば?」と思った。石田さんも言うように、お互いを尊重して、自分の幸せを知り、相手に感謝しつつ、話を丁寧に聞くことさえできれば、なんなりと解決する方法があったような気がする。怒りばかりをぶつけ合う関係も、結局ふたりで作り上げたもの。それなのに、最終的に相手の鼻を明かして勝利したマーガレットの笑顔を見せられて、釈然としない結末。どうしてもウォルターに肩入れしたくなってしまう。決して悪い人ではないのに。
映画に描かれていることが、どこまで現実に起こったことで、どこからが脚色かはわからない。ウォルターはすでに亡くなり、マーガレットはご存命で、映画製作にも関わっているらしい。じゃあマーガレットの語ることばはどこまで現実なのか?
子供の頃からビッグアイズが好きだったというティム・バートン監督は、ほんとうはどちらの言い分も織り交ぜて、完璧に動くはずだったふたりの関係が食い違っていくさまを、もっと滑稽に描きたかったのかもしれない。ウォルターを悪人として掻き切らないのは、ティム・バートンのささやかな抵抗なのかも?と邪推してみたり。
冒頭の疑問は、きっとどちらも正解なんだと思う。