脳内ポイズンベリー

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監督:佐藤祐市
出演:真木よう子、西島秀俊、神木隆之介、吉田羊、浅野和之
時間:120分
公開:2015年
ジャンル:
恋愛マンガ・アニメの実写化

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でべ | 簡易評価: ざんねん | 見た日: 2016年06月26日 | 見た回数: 1回

櫻井いちこは30歳独身、役割別に擬人化された脳内会議と現実が並行して進むラブコメ(?)です。カンの良い方はここでお分かりですね。日本版、そしてオトナ版、「インサイド・ヘッド」です。わかりやすいですね。個人的に「インサイド・ヘッド」はピクサー作品の中ではすこし評価が落ちる。それでも「ああ、アレはよくできてたな」とふつふつ感じてしまう、「インサイド・ヘッド」の評価を上げるだけの残念邦画でした。

とにかく突っ込みたいところは山のようにあるのだけど、予告編でも本編でも「30歳」ということを過剰に主張するんですね。まあ確かに女性の30歳って、現代では人生の転換期とされる年齢だと思います。結婚して子供がいる人もいれば、キャリアを積んで仕事に没頭している人もいれば、どちらにも行き着けなくて焦っている人もいる。「セックス・アンド・ザ・シティ」も「アリー my love」も(シリーズ当初は)アラサー女子のもやもやを描いてますよね。だからその年齢設定にするからには、こちらもなんとなーく想定できるものがあるわけです。……無視!ぜーんぶ無視!!

主人公いちこさんは、定職もなく友達の勧めでなんとなく携帯小説書いてる(それで食えてるらしい)、そしてその友達は旦那さんも子供もいて仕事もバリバリやってる。でもそんなことでは悩みません。まーったく危機感ゼロ!
もともとおっとりしたキャラのいちこさんですが、そんな彼女に転機が訪れます。胸元から外れて道を転がってゆくペンダント。追いかけるいちこさん、誰かの足元でペンダントは止まり、拾い上げてくれた彼にキューーン!と一目惚れ!なんだその漫画的ハプニング的一目惚れは(まあ漫画なのだが)。んで、「どうしよう?声かける?」「でも変な女だと思われたらどうしよう!?」とかで脳内はてんやわんややっているわけです。いや、いやいやいや、あんたもっと考えることあるだろう。30歳で知らない人に一目惚れとかむつかしいわ!中学生ならともかく。
かたや相手の23歳男子(フリーター、アーティスト志望。早乙女くんといいます)。イマドキ風の何考えてるかわかんない系男子を描きたかったのかなーとは思うのですが、頑固なのか、ただ言葉を知らないだけなのか、それとも若さゆえの気絶中なのか、あまりにキャラクターが崩壊してて、人とのコミュニケーションに問題を抱えてる。行動と言葉からは彼の人格のようなものは全くつかめません。ひとこと言葉を発するたびに、こちらは「えっ?そうなの?」と驚くことになります。本当にこれが今の若者像なら、わたしには理解不能だし怖すぎる。
こんなコミュニケーション能力に不安を抱えるふたりですが、なんやかんやで一応付き合う?みたいになります。
そこに現れる出版社勤務、30代後半男性、越智さん。いちこさんの担当さんで明らかに彼女に好意を寄せています。彼女に対して、自分をよく見せようという思惑は透けて見えますが、総じて理性的で大人です。なんなら我慢やカッコつけが見て取れる分、人間らしくて安心できます。仕事も出来そう。ああようやく普通の人でてきた。でもこっちがホッとしている間にも当のいちこさんの脳内では「越智さんいい人だけど全然ときめかなーい」とかやってて、ほんと、イラつくよりも不安です。わたし、こんな30歳が身近にいたら、ちょっと距離とりますね。怖いもん。

そうそう、彼女の脳内メンバーの話をしていませんでしたね。インサイドヘッドのように感情ごとのキャラクター分けではなく、理性さんが議長を務め、ポジティブさん、ネガティヴさん、衝動さん、記憶さんがテーブルについています。吉田とか石橋とか普通の固有名詞がついていたけど、こんがらがるので役割で書いていきます。いちこさんはとにかく議長の理性さんが優柔不断なんですね。でみんなにわーわー言われて焦っちゃってヘンな行動を取ってしまう。理性さんが頼りないから他のみんながさらにやんやん言う。ご飯を食べたり小説を書いたり日常生活を送っているときの脳内は、きっともう少し冷静な会議が行われていると思うんだけど、そんなシーンは一切ないので、とにかく会議は愛だの恋だので紛糾するばかり。
そして理性さんが「もう無理だー!」とパニック状態になったそのとき、突然本能さんが現れます。本能さんは嵐のごとく会議を叩き壊し、みんなを気絶させていちこさんに「らしくない」行動をとらせてしまう。早乙女くんを誘っちゃうとかね。これってほとんど多重人格者だと思うのですが、そこらへんは少女漫画だから、気にしない。ある日、ポジティブさんが仮死状態に陥って、脳内のなんかよーわからへんお城がガラガラと崩れてしまっても気にしない。その時点で心療内科を受診すべきでないかと、不安になります。

あとは基本的にいちこさんが早乙女くんとうまくいかなかったり、越智さんとの間で揺れたり、でも結局早乙女くんを選んだり。

さてここまでも多少ネタバレしてきましたが、ラストでまあなんとか持ち直すかな、という予感を見せます。

ここから先はお話の核心に関わる記述があります。このリンクで読み飛ばせます。あるいは次の見出しにスキップしてください。

ポジティブさんも復活して、理性さんが本能さんにきっぱりとノーを突きつける。「誰を好きかが問題じゃない、誰と一緒にいる自分が好きかだ!」なにもかも恋愛基軸なのはここまでくるともう麻痺状態なので、とりあえず横に置いといて、なかなかいいこと言う、なんて思ったりしているわたし。「お前の出番じゃない」と言われた本能さんはすこし優しい表情をして、理性さんの頬に触れ、消えてしまいます。なるほど、本能さんは理性さんにやっつけられたわけじゃなくて、みんなにの中に存在しつつ消滅したのだな、と思うわたし。答えの出たいちこさんは早乙女くんに別れを告げて家を出ます。振り返るのをがまんして、ぐっと噛み締めた表情から、上を向いて歩き始めるいちこさん。吹っ切れた表情。だれかのために押さえつけた自分を解放して、ようやくこれから「自分」を歩み始めるのね。ま、それはそれで妥当なラストでしょ、なんて思っているわたし。

そして胸元から外れてしまうペンダント。転がっていくのを追いかけるいちこさん。あ、これは冒頭で早乙女くんと出会う場面と同じ…。冒頭とラストで同じシチュエーションを作って、主人公の変化とか成長を見せる、よくある演出ですね。当然ここは、ひとつ成長したいちこさんが自分でペンダントを拾って、それがなんでもないことのように、付け直して歩き出す、というのがセオリーでしょう。なるほどね。

と思って油断していたら、ペンダントはコツンとだれかの足元で止まる。その靴は越智さん!拾い上げる手元。拾い上げた相手に驚くいちこさん!!!ちゃーん。終了。ハァァ?

最後まで顔は映らないのですが、ペンダントを拾った相手は越智さんであると分かるように描かれています。意図がわからん。隠す意味もわからんし、越智さんである理由もわからん。

むう、書いてて思うけど、この衝撃はうまく伝わらないでしょう、たぶん。わたしは髪の毛が逆立つほど驚きましたけどね。

なーんにもなかったことにして、もう一回「キッカケ」を出して越智さんとやり直すってことを示唆してるの?けっこう端折りましたけど、越智さんに対してヒドいことしましたよね?どっちつかずでフラフラして、越智さん怒らせましたよね?あんたの都合のいいように世界が回ると思ってるの?

いや、それよりも、結局いちこさんの人生はこれからも、偶然出会う男次第、ってこと?

これはもはや、登場人物のいちこさんを責めてる場合じゃなくなった。原作者なのか、脚本家なのか、監督なのか、とにかく誰かが、物語や観客に対して愚かで無礼なひとなんだろう。セオリー外して、含みをもたせて「面白いでしょ?」って言われてる気分。

隠しテキストはここまでです。


ああ疲れました。すいません、この辺で。はい。

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