グッド・シェパード The Good Shepherd

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監督:ロバート・デ・ニーロ
出演:マット・デイモン アンジェリーナ・ジョリー ジョン・タトゥーロ アレック・ボールドウィン タミー・ブランチャード ビリー・クラダップ ウィリアム・ハート ロバート・デ・ニーロ
時間:167分
公開:2006年
ジャンル:
サスペンスドラマ

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柴田宣史 | 簡易評価: おすすめ | 見た日: 2009年01月07日 | 見た回数: 1回

「なんでソ連が崩壊したのに、まだ共産党はあるのか」という疑問は成立するだろうか? 疑問は成立しうるだろうし、歴史をひもとけばそれなりに納得できる答えも見つかるだろう。じゃあなんで冷戦が終わったのに CIA はなくならないのか、という疑問はどうだろう。権力というものは、関係性の網の目の中で相互了解的に、しかしあらがいがたく高まっていくのはそういうものだからだが、CIA は、権力をもって「陰の政府」といわれるようになった訳でなく、きっとその存在から必然的に強い「力」をもってしまった団体故の呼称でしょう。

CIA の基礎は、冷戦前、第二次大戦中の情報戦に端を発しているようですが、やっぱり大活躍したのは冷戦時代です。この映画はその冷戦のさなかおこったピッグス湾事件をもとに膨らませたフィクションですが、「世界で最も有名なスパイ組織」CIA について、その歴史と雰囲気がつかめる作りになっています。タイトルである「善き羊飼い」は、いかにもキリスト教的な世界のネーミングですが、「羊飼い」という言葉自体、「神」のメタファだったりするので、(予告編にある言葉「神に the がつかないように、CIA にも定冠詞は不要」からも)最初はそのような意味かと思ったんですが、識者によると、新約聖書の一節「『良い羊飼い』は羊のために自分の命を犠牲にします」からとられているそうです(*)。

それにしてもコッポラの製作総指揮が偉いのか、デ・ニーロがうまいのかわかりませんが、爆発シーンもカーチェイスもありませんが、きちんと170分間、集中が途切れない作りになっていると思います。ちゃんと加齢していくアンジェリーナ・ジョリーにたいして、物語を差し置いてひとりだけ年を取らないマット・デイモンと、あと「いかにも CIA っぽい顔」の人たちが集まっているせいで人物の判別がつきづらく、本筋以外のところで少々混乱させられましたが、全体としてはかなりよくできていると思います(その中でマット・デイモンの息子役の宇宙人顔だけがやけに際立っていますが……)。

静かな映画ですが、秘密結社からのリクルートや、たくさんの暗号のやり取りなど、作中にちりばめられたいかにもなエピソードも、スケベ心をくすぐってくれます。ひとつ面白かったのは、大事な話をするときには、ドアをあけてしゃべるというのも手なんですね。閉めたらドア越しに盗み聞きされるかもしれませんものね(まあ、そんな大事な話をしているシーンではないんで、あきらかに間違った深読みなんですが)。

最後に大意引用ですが、

マフィア:イタリア人には家族と教会がある、黒人にも音楽がある。しかしあんたらアメリカ人には何があるんだ?
デイモン:アメリカ合衆国と、すこしのお客さんだ(We have United States and a few visitors.)。

という台詞には、愛国心しかすがるもののなくなってしまった男の自虐と、そういう装置を持ってしまった国としての自虐の2つの側面からなる悲しい説得力がありますね。

*でも、元の文章がイエスの「I am the good shepherd. The good shepherd sacrifices his life for the sheep.」だったら、三位一体の考え方からすれば、やっぱり神をさしうるのかしら?

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