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尾内丞二 | 簡易評価: ざんねん | 見た日: | 見た回数: とてもたくさん
記念すべき映画部2,000本目のタイトルということで、せっかくだからタイトルに2000がつく映画が良いと思ったのですが、思いついたのが「ブラボー火星人 2000」しかありませんでした。 そんなB級コメディーでは残念極まりないので、僕が昔撮った映画を追加することにします。 映画部創設以来初めて監督自身が紹介文を書くというワケです。 しかも映画本編のYouTubeのURL付き。 https://www.youtube.com/watch?v=zeYzGh0n9tQ&list=UUCvZEsaxpXo5tcVwtFp2Z2Q さて。 物語の大筋は、主人公のシンジが不思議な携帯メールを頼りに元カノの痕跡を追って右往左往する話です。 映画の最後にはビルの屋上で儚げに佇む元カノに出会い、ヨリを戻してめでたしめでたし。 …なんだコレ。 他人が作った作品ならばいったいどこのバカがこのくだらない話にGOを出したのか徹底的に責任を追及したくなるところですが、今回その刃の矛先は自分自身に向いています。
しかし思えば批評というものはいつだって諸刃の剣です。他人を評価しようとするならば、等しく自分も評価するのが筋というもの。 今回はこれを機会に恐れず向き合ってみましょう。 まずは冒頭で深尾チカ演じる「ハルミ」が、青空を背景に両手を広げゆっくりと倒れていくカット。 これは『元カノが死んで(自殺して)しまうのではないか』という不安を抱いている主人公が見ている夢です。 現在の僕からすると、別れ話をきっかけに自殺を計るかもしれないような面倒くさい女など縁を切って大正解だと思うのですが、当時の僕はどこかで『自殺=悲しい/美しい』という構図が成立していたのでしょう。 安っぽい映画やドラマの見過ぎで命の尊さというものを履き違えてしまっている典型です。 (これに関しては石田さんの赤い糸のネタバレ記事も併せて読むと良いでしょう) まるで中学生が書いたケータイ小説のような身の毛もよだつスタートダッシュを切った物語は、減速することなくそのままトワイライトゾーンへ突入します。 主人公の携帯電話に元カノからメールが届くのですが、なんと送信時刻が文字化けしているのです!不思議! しかも添付ファイルの映像を開くと、主人公が今まさに見ている光景が映し出されます…その場に元カノはいないというのに!! 自分の傷に塩を塗るつもりで分析しますが、このとき送信者履歴に「ハルミ」と表示されていることから、このメールは確かに元カノの携帯電話から送信されたと思われます。 ところが添付映像は現在進行形でシンジが目にしている風景なワケですから、元カノはテレパシー的な不思議な超能力で主人公の視覚情報をQuickTime形式で取得し、これまたテレパシー的な不思議な超能力で自分の携帯メールに添付・送信したわけです。 しかも物語が進むにつれ、その携帯メールは時間を超えて次第に『未来の風景』を送ってくるようになります。 だから送信日時だけが奇妙に文字化けしているわけです!動画撮影日時とメール送信日時にどのような因果関係があるかは判りませんが、まことに不可解極まりない現象ですね!! そしてハルミは MAILER-DAEMONもビックリの離れ業を披露してまで元カレにいったいどんな嫌がらせをしているのかというと、実は別にそういうワケでもなく、ただ坦々と主人公の未来の視覚情報を送ってきます。 しかしその映像も、どこで何を撮影したものかよく分からなかったりもします。
およそ10年前の僕は愚にもつかない恋愛ファンタジーに、なんと推理ミステリーの要素も贅沢に盛り込んだワケです。 頭脳は子ども!身体はオトナ!! 七色の脳細胞のひらめきと目の前の風景からごくごく容易に未来のロケーションを推理したシンジは、面倒くさい元カノがいるであろう場所に向けて走り出します。本作で一番格好いいシーンです。 当時はサラサラで張りのあった前髪をなびかせ、三条御幸町を疾走するシンジの映像。 その未来の映像が脅威のVFX技術により次第に現在の映像へとシフトしていきます。
主人公の走る姿が映っていることから、もはやハルミはシンジの視覚情報だけを取得しているワケではないことになりますね。 颯爽と走るシンジをパンで追い、ハルミが屋上で待つであろう建物をシンジの足元からローアングルで煽りFIX。…誰の目線かは知りませんが実に見事なカメラワークです。 そして映画史上最も物議を醸さなかったラストシーン。 これまで誤解を恐れて何を言えば良いのか分からなかった男が、あたかも無駄に浪費されたシークエンス尺を取り戻すかの如く一気に想いをぶちまけます。専門用語ではこれを『シワ寄せ』と呼びます。 「一緒に帰ろう。」 「うん、一緒に帰ろう。」 ドヤア 深尾チカ演じるハルミは小動物くらいなら見るだけで殺せそうな眼力を備えた美少女ではありますが、行方を眩ませておきながら自分の痕跡をちょくちょく元カレに送り続けるようなウザい女子を本当にお持ち帰りして良いものかどうか真剣に悩みつつエンドロール。 僕を知らない誰かがこの映画を見たら、稚拙な技術と若気の至りをこじらせたくだらない作品だと言うでしょう。 実際その通りだし、一度視聴すれば二度と観る必要などない映画です。
しかし僕は今後も定期的にこの映画を観ると思います。
昔を懐かしんでノスタルジーに浸るためではなく、当時はできなくて今は出来るようになった技術を確認し、登場人物の描写のどこが不十分で、本当は何をさせて何を言わせるべきだったのかを見つけるために観るのです。 僕は映画ファンではありません。映像制作者です。 だから本当は誰が作った映画であろうと、そういう見かたをしなければならないのです。
本作はそれを思い出させてくれる戒めでもあるのです。
学校で自慢できない『IT MAKES ME RUN』の豆知識
・ハルミがスローで倒れるシーンは高速度撮影ができなかったため、仰向けに寝転がった僕が女優の背中を足で支えてゆっくり倒した。 ・ホームレス役の柴田はすでに時代工房を経営していたが、仕事を抜け出して撮影に参加。 ・劇中でハルミではない女の子が着ているTシャツはでべのTシャツ。白黒反転したデザインもある。 ・クランクアップ後の打ち上げは河原町丸太町のびっくりドンキー。 ・編集は全てコンポジットソフトのAfterEffects。 ・主演2人の役名は漢字で書くと「真示」と「遥見」。『男は手元の真理を指すが、女は遥か遠くを見ている』という言葉遊び。 ・原作者『LOST&FOUND』は僕と柴田が共同執筆する際のユニット名。このコンビが脚本を書いた同名短編映画(未完)のタイトルから。 ・シンジが使っているauの機種は動画撮影はできるが動画ファイルを添付したメールの受信はできない。 ・Special thanksにクレジットされている園部由佳、辻健太郎、仁井宏明の3名はエンドロールを長くするために名前を借りただけで、映画制作に協力したわけではない。
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記念すべき映画部2,000本目のタイトルということで、せっかくだからタイトルに2000がつく映画が良いと思ったのですが、思いついたのが「ブラボー火星人 2000」しかありませんでした。
そんなB級コメディーでは残念極まりないので、僕が昔撮った映画を追加することにします。
映画部創設以来初めて監督自身が紹介文を書くというワケです。
しかも映画本編のYouTubeのURL付き。
https://www.youtube.com/watch?v=zeYzGh0n9tQ&list=UUCvZEsaxpXo5tcVwtFp2Z2Q
さて。
物語の大筋は、主人公のシンジが不思議な携帯メールを頼りに元カノの痕跡を追って右往左往する話です。
映画の最後にはビルの屋上で儚げに佇む元カノに出会い、ヨリを戻してめでたしめでたし。
…なんだコレ。
他人が作った作品ならばいったいどこのバカがこのくだらない話にGOを出したのか徹底的に責任を追及したくなるところですが、今回その刃の矛先は自分自身に向いています。
しかし思えば批評というものはいつだって諸刃の剣です。他人を評価しようとするならば、等しく自分も評価するのが筋というもの。
今回はこれを機会に恐れず向き合ってみましょう。
まずは冒頭で深尾チカ演じる「ハルミ」が、青空を背景に両手を広げゆっくりと倒れていくカット。
これは『元カノが死んで(自殺して)しまうのではないか』という不安を抱いている主人公が見ている夢です。
現在の僕からすると、別れ話をきっかけに自殺を計るかもしれないような面倒くさい女など縁を切って大正解だと思うのですが、当時の僕はどこかで『自殺=悲しい/美しい』という構図が成立していたのでしょう。
安っぽい映画やドラマの見過ぎで命の尊さというものを履き違えてしまっている典型です。
(これに関しては石田さんの赤い糸のネタバレ記事も併せて読むと良いでしょう)
まるで中学生が書いたケータイ小説のような身の毛もよだつスタートダッシュを切った物語は、減速することなくそのままトワイライトゾーンへ突入します。
主人公の携帯電話に元カノからメールが届くのですが、なんと送信時刻が文字化けしているのです!不思議!
しかも添付ファイルの映像を開くと、主人公が今まさに見ている光景が映し出されます…その場に元カノはいないというのに!!
自分の傷に塩を塗るつもりで分析しますが、このとき送信者履歴に「ハルミ」と表示されていることから、このメールは確かに元カノの携帯電話から送信されたと思われます。
ところが添付映像は現在進行形でシンジが目にしている風景なワケですから、元カノはテレパシー的な不思議な超能力で主人公の視覚情報をQuickTime形式で取得し、これまたテレパシー的な不思議な超能力で自分の携帯メールに添付・送信したわけです。
しかも物語が進むにつれ、その携帯メールは時間を超えて次第に『未来の風景』を送ってくるようになります。
だから送信日時だけが奇妙に文字化けしているわけです!動画撮影日時とメール送信日時にどのような因果関係があるかは判りませんが、まことに不可解極まりない現象ですね!!
そしてハルミは MAILER-DAEMONもビックリの離れ業を披露してまで元カレにいったいどんな嫌がらせをしているのかというと、実は別にそういうワケでもなく、ただ坦々と主人公の未来の視覚情報を送ってきます。
しかしその映像も、どこで何を撮影したものかよく分からなかったりもします。
およそ10年前の僕は愚にもつかない恋愛ファンタジーに、なんと推理ミステリーの要素も贅沢に盛り込んだワケです。
頭脳は子ども!身体はオトナ!!
七色の脳細胞のひらめきと目の前の風景からごくごく容易に未来のロケーションを推理したシンジは、面倒くさい元カノがいるであろう場所に向けて走り出します。本作で一番格好いいシーンです。
当時はサラサラで張りのあった前髪をなびかせ、三条御幸町を疾走するシンジの映像。
その未来の映像が脅威のVFX技術により次第に現在の映像へとシフトしていきます。
主人公の走る姿が映っていることから、もはやハルミはシンジの視覚情報だけを取得しているワケではないことになりますね。
颯爽と走るシンジをパンで追い、ハルミが屋上で待つであろう建物をシンジの足元からローアングルで煽りFIX。…誰の目線かは知りませんが実に見事なカメラワークです。
そして映画史上最も物議を醸さなかったラストシーン。
これまで誤解を恐れて何を言えば良いのか分からなかった男が、あたかも無駄に浪費されたシークエンス尺を取り戻すかの如く一気に想いをぶちまけます。専門用語ではこれを『シワ寄せ』と呼びます。
「一緒に帰ろう。」
「うん、一緒に帰ろう。」
ドヤア
深尾チカ演じるハルミは小動物くらいなら見るだけで殺せそうな眼力を備えた美少女ではありますが、行方を眩ませておきながら自分の痕跡をちょくちょく元カレに送り続けるようなウザい女子を本当にお持ち帰りして良いものかどうか真剣に悩みつつエンドロール。
僕を知らない誰かがこの映画を見たら、稚拙な技術と若気の至りをこじらせたくだらない作品だと言うでしょう。
実際その通りだし、一度視聴すれば二度と観る必要などない映画です。
しかし僕は今後も定期的にこの映画を観ると思います。
昔を懐かしんでノスタルジーに浸るためではなく、当時はできなくて今は出来るようになった技術を確認し、登場人物の描写のどこが不十分で、本当は何をさせて何を言わせるべきだったのかを見つけるために観るのです。
僕は映画ファンではありません。映像制作者です。
だから本当は誰が作った映画であろうと、そういう見かたをしなければならないのです。
本作はそれを思い出させてくれる戒めでもあるのです。
学校で自慢できない『IT MAKES ME RUN』の豆知識
・ハルミがスローで倒れるシーンは高速度撮影ができなかったため、仰向けに寝転がった僕が女優の背中を足で支えてゆっくり倒した。
・ホームレス役の柴田はすでに時代工房を経営していたが、仕事を抜け出して撮影に参加。
・劇中でハルミではない女の子が着ているTシャツはでべのTシャツ。白黒反転したデザインもある。
・クランクアップ後の打ち上げは河原町丸太町のびっくりドンキー。
・編集は全てコンポジットソフトのAfterEffects。
・主演2人の役名は漢字で書くと「真示」と「遥見」。『男は手元の真理を指すが、女は遥か遠くを見ている』という言葉遊び。
・原作者『LOST&FOUND』は僕と柴田が共同執筆する際のユニット名。このコンビが脚本を書いた同名短編映画(未完)のタイトルから。
・シンジが使っているauの機種は動画撮影はできるが動画ファイルを添付したメールの受信はできない。
・Special thanksにクレジットされている園部由佳、辻健太郎、仁井宏明の3名はエンドロールを長くするために名前を借りただけで、映画制作に協力したわけではない。