ワン・モア・タイム One More Time

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監督:ロバート・エドワーズ
出演:クリストファー・ウォーケン、アンバー・ハード、オリヴァー・プラット
時間:103分
公開:2016年
ジャンル:
音楽ドラマ

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でべ | 簡易評価: まあまあ | 見た日: 2019年04月27日 | 見た回数: 1回

おとな同士の家族関係はなかなか複雑である。保護者である大人と、生活を保障された守られるべき子供、そんなシンプルな関係でいられるあいだは分かりやすいが、いつの間にか子供は成長し、互いに大人として関係を築くときがくる。そしてそれは、どう転んでもあかの他人同士のようにはならない。親は子に、子は親に「こうであって欲しい」となんらかの期待をし続けてしまう。だからおとな同士の家族関係は、いつも少し居心地が悪い。

この映画の主人公ジュードは、音楽の道を目指しているが、30を過ぎても道は開かれず、家賃滞納でアパートを追い出されてしまう。仕方なしに実家に身を寄せるが、そこにいるのはかつて甘い歌声で名を馳せ、「ムーディー・キング」と呼ばれた父親と、彼の6番目の妻。実業家として成功し、結婚して子供のいる妹。当然ジュードは居心地が悪い。食卓を囲んで談笑していても、なんてことない会話のよそよそしさにイラだって、皮肉っぽい発言を繰り返してしまう。と、そこで年老いた父親が重大発表をする。自分の書いた曲で復活を果たす、と。祝福するほかの家族たちとは対照的に、ジュードは不満げに料理をかき回す。

この映画の奇妙さは、表面に現れる居心地の悪さと不満の端々に、ほのかにお互いへの敬意や尊重が垣間見えること。
深夜、父親がリビングでオールディーズの音楽番組を見ていると、眠れないジュードがやってくる。二人でタバコを分け合いながら、深夜番組にブツブツと文句をいうところから会話が始まる。それは、成功者としての父に嫉妬する娘と、娘に干渉したがる父親の会話のようにも見える。片方で、お互いに讃え合い、踏み込みすぎない程度に配慮をしているようでもある。この二人には父と娘という関係以外に音楽業界を知る者同士の関係がある。
険悪な姉妹仲にしても同じだ。性格が違って相容れない様子ではあるが、自分にはないものを手にしている相手に、嫉妬しつつ尊敬があるように見える。簡単にそれを認めたくないだけで。別々の道を歩んだけれど、普通でない父親と、なんとか折り合いをつけてきたという、ふたりには共通の話題がある。

大きな事件が起こるわけでもなく、クライマックスが盛り上がるような映画ではないけど、輝かしい過去の自慢話をしたがる父親の、いい加減な人間性の隙間に垣間見えるちょっとした言葉の重みが、本当に重くて、何度かはっとさせられた。自分の挫折を父親のせいだと当たり散らすジュードに、時々冗談のように、時々真顔で短く鋭く言葉を返す。
父親役のクリストファー・ウォーケンが怖くて良かった。


Netflixで配信していたのを見たけど、日本版のディスクは販売されていないみたい。