​人口30万人のちいさな国、アイスランドには世界で唯一の博物館がある。もと教師のシッギさんが運営するペニス博物館だ。友人からジョークで牛のペニスを贈られて以来、かれはさまざまな生き物のペニスを集めてきた。ぜひコレクションに加えたいのに、欲しくても手に入らないもの、それは人間のペニスだった。

…というドキュメンタリー映画です。

「セクシャルな興味ではなく、21世紀になったいまでもペニスについて語ることがタブー視されている。その倫理観を問いたい」と真顔で語るおじいちゃんを見ながら、わたしはテントウムシの交尾のことを思い出した。

とある日、朝の散歩で交尾しているテントウムシを見つけた。それを見て、どういう気持ちになったか、言葉にするのは難しいけど、少なくともセクシャルな、卑猥な気持ちではなかった。小さい生きものがここで生きていることへの愛おしさや、興味を持って観察することの面白さや、珍しいものを見つけたうれしさや、そんなだったと思う。わたしは静かに近寄って、写真を撮って、Facebookに公開した。ねえ見て、今日見つけた面白いものだよ。ヘンテコな看板を見つけたときや、バカな聞き間違いを公開するときと、なんら気持ちは変わらなかった。でもその写真に対して「いやらしい」というようなコメントを受けた（※）。わたしはとても、奇妙な気持ちだった。そういうアンタがいやらしいわ、と思いつつ、無言の人たちも「でべってばいやらしい」と感じているのかしら、と思うと、なんか情けないというか馬鹿らしいというか。
だからと言って、それで傷ついたりはしてないんだけど。相手が損してるなあと思うだけで。この映画では、嬉しそうに自分のコレクションを紹介するおじいちゃんの姿を、いやらしいと言い捨ててしまわないように、注意深く丁寧に描いていて、なかなか好印象でした。

※いま、Facebookを見直してみたら、思っていたようなコメントがなかったので、記憶違いかも？もしくはオフラインで、直接誰かに言われたのかもしれない。

当然、画面にペニスがいっぱい出てくるんだけど、日本の映画倫理委員会の倫理の線引きも興味深くて面白い。ペニスのことをおおっぴらに語ってもいいじゃないか、というおじいちゃんの主張とは裏腹に、ところどころに日本公開のために追加されたであろうモザイクがかかる。動物のペニスはOK、人間のはNG、じゃあ絵なら？ペニスの形の作品なら？実際のペニスを型取りして作った模型なら？死んだ人間なら？ペニスだけを手術で切り取ったら？標本なら？
さて、どこまでがアウトでしょうか？